将棋は日本の伝統文化の一つとして広く親しまれていますが、その駒にも長い歴史と職人の技が凝縮されています。今回は、将棋の駒、特に天童将棋駒を中心に、その魅力と奥深さについてご紹介します。
将棋駒の歴史
将棋の起源は古代インドにあるとされ、奈良時代に日本に伝来したと言われています。当初は貴族の遊びでしたが、時代とともに武士や庶民にも広まっていきました。
江戸時代に入ると、将棋は大きな変革期を迎えます。幕府の保護を受けた「将棋家元制度」が確立され、駒の形や文字が統一されました。この時期に、現在我々が目にする五角形の駒の形状が定着したのです。
天童将棋駒の誕生
山形県天童市は、「将棋の街」と呼ばれ、日本の将棋駒生産の中心地として知られています。その歴史は江戸時代後期にさかのぼります。

将棋供養塔は、天童市が推進する「将棋にこだわったまちづくり」の一環として設置されました。市内には将棋をモチーフにしたさまざまなオブジェや施設が点在しており、将棋供養塔もその一つとして、天童市の将棋文化を体現する重要な存在となっています
1831年、財政難に苦しんでいた天童織田藩が、藩士たちに内職として将棋駒づくりを奨励したことが始まりでした。「将棋は戦略を練る競技だから、武士の面目を傷つけない」という理由で、駒づくりが推奨されたのです。
当時の天童では、木地づくりと文字書きの分業制で駒が作られていました。この伝統的な製法が、天童将棋駒の礎となったのです。
天童将棋駒の特徴
天童将棋駒の最大の特徴は、漆を使用した美しい文字にあります。特に「書駒(かきごま)」と呼ばれる伝統的な駒は、木地の表面に直接漆で文字を書き込むという、高度な技術を要する製法で作られています。
駒の材料には、ホオノキ、ハクサンボウ、ツゲ、イタヤカエデなどが使用されます。中でも、伊豆七島の御蔵島産のツゲは最高級品とされ、駒師たちの間で珍重されています。
また、天童将棋駒の魅力は文字だけではありません。駒木地の豊かな表情も、その魅力の一つです。木目の美しさは価格にも反映され、40枚全ての木目や材色が揃った駒セットは特に高値で取引されます。
駒づくりの技術と進化
天童の駒づくりは、時代とともに進化を遂げてきました。明治時代末期から機械化が進み、大量生産が可能になりました。これにより、昭和初期には安価で良質な天童将棋駒の供給が実現しました。
しかし、技術の進歩は伝統を失わせることはありませんでした。むしろ、新しい技法を生み出す原動力となったのです。例えば、昭和40年代に入ると、「彫り駒」「彫り埋め駒」「盛り上げ駒」といった新しい技法が研究され、製品化されました。
特に「盛り上げ駒」は、漆を生地より盛り上げて文字を作る高度な技法で、プロ棋士のタイトル戦でも使用されるほどの品質を誇ります。
駒師の世界
駒づくりの世界には、「駒師」と呼ばれる職人が存在します。彼らは長年の経験と研鑽を積み重ね、高度な技術を身につけた匠たちです。
駒師の仕事は、単に文字を書くだけではありません。木地の選定から、漆の調合、文字のバランス、仕上げまで、全ての工程に細心の注意を払います。一つの駒を完成させるまでに、何十もの工程を経るのです。
特に「書駒」の製作は、最も難しいとされています。文字を書く際には、筆の運びや力加減、漆の粘度など、様々な要素を瞬時に判断し、調整しなければなりません。この技術を習得するには、10年以上の修行が必要だと言われています。
駒の種類と書体
天童将棋駒には、様々な種類があります。最も伝統的な「書駒」の他に、「彫り駒」「押し駒」などがあります。
「彫り駒」は、木を彫った部分に漆を塗って文字を表現する方法です。「押し駒」は、スタンプのように文字を押し付けて作る方法で、大量生産に適しています。
また、駒の文字には様々な書体が使用されます。伝統的な草書体から、楷書体、行書体まで、150種類以上の書体があるとも言われています。それぞれの書体には独特の味わいがあり、駒の個性を引き立てています。
駒づくりの未来
伝統工芸品である天童将棋駒は、時代とともに変化を遂げてきました。しかし、その本質的な魅力は変わっていません。職人の技と心が込められた一つ一つの駒には、日本の文化と歴史が凝縮されているのです。
近年では、将棋の人気再燃とともに、高品質な駒への需要も高まっています。また、将棋駒づくり体験など、観光と結びついた新しい取り組みも行われています。
一方で、後継者不足や原材料の確保など、課題も存在します。特に、高級駒に使用される御蔵島産のツゲは、供給量が限られており、将来的な確保が懸念されています。
これらの課題に対して、天童市や関連団体は様々な取り組みを行っています。例えば、若手職人の育成プログラムや、新しい材料の研究などが進められています。
将棋駒の魅力を再発見

将棋駒は、単なる道具ではありません。そこには、日本の文化と歴史、そして職人たちの魂が込められています。
駒を手に取ったとき、その重みと手触り、漆の艶やかさ、木目の美しさに、きっと心を奪われることでしょう。それは、何百年もの時を超えて受け継がれてきた、日本の美意識との出会いです。
将棋を指す際には、ぜひ駒にも注目してみてください。そこには、想像以上の奥深さと魅力が隠されています。そして、その小さな芸術品を生み出す職人たちの技と心意気に、思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
将棋駒は、日本の伝統工芸の素晴らしさを、身近に感じることができる貴重な存在なのです。これからも、この素晴らしい文化遺産が受け継がれ、さらに発展していくことを願ってやみません。
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